2020.09.25

北朝鮮でもQRコードスマホ決済が始まる 意外に進んでいる平壌のキャッシュレス決済事情

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
北朝鮮という国の実情を正確に知る人は少ない。簡単に入国することはできないし、入国できたとしても行動制限を受け、北朝鮮が見せたい場所にしか行けないからだ。

ところが、北朝鮮の総合雑誌「千里馬」2019年10月号によると、スマートフォンによるQRコード決済が始まるという。この記事は「商品識別コードの導入拡大」と題したもので、商品コードにバーコードとQRコードを併用しているが、情報量の多さからQRコードをより使うべきだということを論じた記事。QRコードを商品コードとして使うことで、消費者が自分のスマホでスキャンして、商品の賞味期限などの情報も閲覧できるようになるからだという。

この記事の中で、QRコードを利用したスマホ決済サービスも準備されていると触れられている。

そもそも、北朝鮮にスマホがあるのかと驚く人もいるかもしれないが、「ピョンヤン」と「アリラン」の2つのブランドがあり、平壌市内ではごく普通に使っているという。韓国IBK朝鮮経済研究所の調査によると、2019年12月時点での北朝鮮の携帯電話利用者数は約600万人。平壌での利用者割合は、50%から70%程度と見られている。特に、大学生を中心とした若者層に浸透しているという。

ネットフリックスで話題になっている韓国ドラマ「愛の不時着」は、北朝鮮がドラマの舞台となっている。あくまでも韓国の制作スタッフが再現をしたものだが、脱北者の協力を得て、精密に再現をしているという。韓国や日本に居住している脱北者が、このドラマの再現度をネットでコメントしているが、多くの人がどうしてここまで正確に再現できたのかと驚いている。

もちろん、フィクションドラマであるので、演出上、事実とは違った表現をすることは考慮に入れる必要があるが、平壌の富裕層の間では、スマホはごく日常的なツールになっている。海外ブランドの服飾品も惜しげもなく購入し、高級欧州車に乗っている。

このドラマの中に面白いエピソードが出てくる。北朝鮮の女性が暇つぶしにスマホで「少年将軍」というアクションゲームを楽しんでいる。任天堂の初代ファミコンのゲームのような画面の粗さではあったが、それを見た韓国出身者が「どこで手に入れるのか?」と尋ねる。すると「アプリストアはない。平壌のポンサ市場にアプリ商店があって、そこで対面で購入する」と説明する。

ただし、最近の報道では、ネット上にアプリストアがあるということなので、古い状況を、ドラマの演出のため採用したのかもしれない。いずれにしても、スマホ文化が平壌の富裕層の間では、私たちとそう変わらないほど浸透しているようだ。


北朝鮮のネット環境は、当然ながら独特だ。光星を意味するクワンミョンと呼ばれるイントラネットになっている。海外サイトにアクセスすることはできず、海外からアクセスもできない。中国経由でインターネットにアクセスするルートもあるようだが、当然ながら厳しく管理され、政府の一部の機関でしか利用することができない。

それでも、平壌空港などでは外国人観光客など様にWi-Fiサービスも始まっている。ただし、サービスがスタートした当時の2018年の報道によると、北朝鮮のスマホ「アリラン」のみ対応だということだ。

キャッシュレス決済についても、平壌の富裕層だけに限れば、日本よりも普及は早いぐらいかもしれない。2010年には朝鮮貿易銀行が、デビットカードと電子マネーの機能を兼ね備えた「ウイング」の発行を開始している。翌2011年には高麗銀行が「高麗」を、さらに朝鮮中央銀行が「全盛」、大成銀行が「金路」を発行して、2010年代初めにはキャッシュレス決済環境が整ったと見られている。

これに合わせるかのように、2012年には、平壌市内の光復地区に3階建て、総面積2.7万平米(サッカーコート4つ分)のショッピングモールが、中国の飛海蒙信貿易と朝鮮大聖総商社の合弁により開店している。このモールでは、デビットカード決済に対応しているという。

また、2015年からはECサイトが登場してきている。朝鮮人民服務総局がECサイト「玉流」を開設、翌2016年にはEC「万物商」が登場し、スマホにも対応をした。スマホから商品を注文して、自宅に配送してもらうことができるようになった。その後も「朝鮮貿易」「Abnal」が登場をしている。

想像よりも消費経済が活発で、このようなECもデビットカード決済に対応をしている。
QRコード決済の利点は、商店側がリーダーなどの機器、ネット回線などを用意しなくても、印刷したQRコードだけを用意することで対応できる点だ。デビットカードに続いて、QRコード決済を導入するということは、キャッシュレス決済をモールなどの大型商店だけでなく、一般店舗にまで広げていく計画だと見るのが妥当だ。

このようなサービスを利用しているのは、平壌の富裕層と呼ばれるごく一部の人たちだ。この富裕層の収入の源泉は不動産投資だという。社会主義である北朝鮮では、当然ながら土地の私有はできない。しかし、マンションなどに住む居住権の売買は盛んらしく、これを転売して、事実上の不動産取引は活発に行われているのだという。


韓国ドラマ「愛の不時着」では、北朝鮮の国境近くの農村の様子も描かれている。ここは平壌とは別世界だ。携帯電話を使っている人も少なく、市場では現金決済が当たり前で、物々交換さえ行われている。農村部では、銀行口座さえ持っていない人が大半であるとも言われる。
そういう格差を抱えながら、平壌のデジタル化、キャッシュレス化は、急激に進んでいるようだ。(執筆:牧野 武文氏)


図:北朝鮮のECサイト「万物商」。海外向けのサイトらしく、インターネットからもアクセスができ、ハングル、中国語、英語のページが用意されている。しかし、商品を購入することはできず、単なるカタログサイトになっている。
http://www.manmulsang.com.kp/



参考1:平壌の光復地区に2012年に開店したショッピングモール。デビットカードで決済ができる。



参考2:北朝鮮の商品にはバーコードでなく、QRコードが使われる例が増えている。QRコードが普及したため、QRコードスマホ決済サービスも始まろうとしている。



参考3:ウォールストリートジャーナルの報道ビデオによると、平壌ではごく当たり前にスマートフォンが使われている。市内で、スマホに見入る姿は他の国と変わらない。いくつかのアプリも紹介されている。



参考4:平壌空港では、WiFiサービスも始まっている。しかし、2018年の段階では、北朝鮮製スマホ「アリラン」のみ対応ということだ。



この記事が気に入ったら
いいね!しよう

PCI DSS 関連の最新記事をお届けします

  • このエントリーをはてなブックマークに追加