あらかじめユーザーのスマートフォンのアプリにクレジットカードやデビットカードを登録し、支払時にはQRコード(または通常のバーコード)を利用する「QRコード決済」を導入する店舗が増えている。国内のQRコード決済の主要プレイヤーの動向について、D4DR株式会社代表取締役社長の藤元健太郎氏(写真・以下藤元氏)に聞いた。
2種類のQRコード決済をEMVCoが標準化
QRコード決済とは、スマートフォンアプリに予め登録されたクレジットカードやデビットカードか、あらかじめチャージした残高からQRコードの読み取りによって決済を行う方式である。金額など決済情報が入ったQRコードを店舗側のPOS端末のディスプレイパネルやタブレットの画面などで表示し、買い物客のスマートフォンのカメラで読み取る方式(店舗提示方式)と、ユーザー識別を含む決済情報が入ったQRコードを買い物客のスマートフォンに表示させ、加盟店がPOSのバーコードリーダーやタブレットのカメラで読み取る方式(消費者提示方式)の2種類がある。比較的小規模な加盟店にとっては、専用の決済端末の導入を伴なうSuicaやApple PayなどNFC決済よりも採用するハードルは低い。また既存の店舗にとっても、新しい決済手段を導入する際の決済端末やPOSシステムへの改修コストが低いため、QRコードによるものの方が採用しやすいとも言われている。
現在QRコード決済の仕様は、ペイメントブランドや決済サービス事業者ごとに異なっているが、今後さらに普及させていくためには、相互運用性と安全性を高める必要がある。そこでICカードや3Dセキュアなどの決済技術の標準化と認定を行うEMVCoが、「
QR Code Specification for Payment Systems」としてEMVCo QRコードによるペイメントシステムの標準化仕様を2017年7月に公表している。
Alipayを武器にLINE Payを追うOrigami Pay
つい最近まで、日本で利用できる主要なQRコード決済サービスといえばLINE株式会社が提供するLINE Payだった。2014年のサービス開始時にはLINEユーザー同士のオンライン送金サービスがメインだったが、2016年春からJCBと提携し、JCB加盟店3000万店舗で利用できるプリペイドカード「LINE Pay Card」発行とQRコード決済の導入で対面店舗での利用促進に力を入れている。
方式は、消費者提示方式と店舗提示方式の両方に対応する。QRコード決済対応の加盟店数は非公開だが、2017年1月からはローソン全店舗で利用できるようになるなど、加盟店を増やしている。とはいえ、「2017年2Q決算発表でLINE Payのグローバル流通総額が1000億円を超えたと発表されたが、そのほとんどはネット(非対面)で使われているだろう。」と藤元氏はいう。
最近対面店舗におけるQRコード決済で頭角を現してきているのが、Origami Payである。2016年5月にサービスを開始した店舗提示方式のサービスで、現在の加盟店数は約20,000店となっている。
LINE Payのようなユーザーベースを持たないOrigami社の武器は、中国最大手電子決済サービス支付宝(以下、Alipay)との提携関係と藤元氏は見ている。AliPayは中国国内で4億5千万人のユーザーが利用しており、中国国内の電子決済シェアの50%を占める。「小売業の視点では、Alipayの対応ができるならOrigami Payを入れる方が面白いかもしれないと感じます。」(藤元氏)2016年11月の提携以来、日本交通、ローソン、和民グループなど、など大手事業者が次々と導入を発表している。
Origami Payのもう一つの特徴が、スマホアプリを利用した送客機能だ。具体的には日本交通のタクシーなど、その機能を導入した加盟店の利用者に対してキャッシュバックを展開している。その原資はクレジットカード会社負担の場合やOrigami Payを導入する加盟店の場合があるという。クレジットカード会社が原資を負担するのはOrigami Payの利用でカード利用機会が増える可能性があるというシンプルな理由であると推測できるが、加盟店が原資を負担する理由は何だろうか。
藤元氏は「加盟店はOrigamiアプリが提供するCRM機能に期待しているから」と説明する。「例えば、MUJI Passportのような自社専用スマホアプリによる会員化やクーポン配信をやりたい企業は多いのですが、実際に消費者にスマホアプリをダウンロードしてもらうハードルはとても高く、単独でシステムを構築してもダウンロード数が伸びないケースも少なくないです。それなら既に一定数のダウンロード数と会員数を持つOrigami Payに相乗りしてクーポン配信を行い、送客してもらう方が即効性があると考え、そのためのキャンペーン原資を含めコストを支出するわけです。」(藤元氏)
中国がQRコード決済大国になった理由
QRコード決済の先進国といえば中国だ。中国では偽札の流通量も他国と比べ多いと言われており、加盟店側も現金以外の手段で決済をしてもらいたいという強い動機がある。QRコード決済はAlipayとWeChatPayの寡占状態で、2015年頃から爆発的に広まった。「2016年の流通総額は
年間2.9兆ドル(約320兆円)という試算もあります」(藤元氏)街の露店でさえQRコードでなくては支払えず、現金を受け取ってもらえない様子は、日本でもしばしば報じられている。
日本に比べて中国でQRコード決済が急速に広まった理由の一つが、「日本では一般的なNFCを利用した決済が中国にはもともとなかったからではないか」と藤元氏は推測している。「日本の場合はSuica/Nanaco/WAONなどのカード型電子マネーや、モバイルSuicaのようなケータイをかざすだけの決済手段が既に根付いていました。支払のたびにスマホのアプリを起動してQRコードを読み取るインターフェイスよりは圧倒的に速く、ユーザーにとって便利だと言えます。」(藤元氏)
一方中国では、元々そうした手段がなく、また中国国内では大半の国民が持っている銀聯カードもクレジットカードよりもデビットカードの方が普及している事情があった。AlipayやWeChatPayのQRコード決済アプリは、クレジットカードを介してではなく、デビットカードを登録し支払時にはそのまま銀行口座から現金が引き落とされる形となる。カードがアプリに入れ替わっただけのシンプルで分かりやすい仕組みなので、デビットカードを置き換える形で、自然に普及していったのだろう。
とはいえ、中国人が老若男女皆AlipayやWeChatPayを当たり前に使っているかどうかは分からないと藤元氏は言う。「日本国内免税店では、Alipayよりも銀聯カードの利用者がまだまだ多いというデータがあります。AlipayやWeChatPayの利用者は若い人が中心で、日本観光に来るような比較的年齢の高い人には銀聯カードの利用者の方が多いのかもしれません。」(藤元氏)なお、前述のEMVCoのメンバーとして中心的にQRコードのペイメントシステム標準仕様を策定した銀聯も2017年5月から「モバイルQuickPass QRコード」のサービスを開始しているが、2017年8月現在では日本国内の加盟店では展開されていない。またAliPayも中国に銀行口座を持たないユーザーは、現時点で支払機能を登録することができないが、2018年には、日本のクレジットカードや銀行口座を持つ日本国内のユーザーにも展開を予定している。
ECからリアル店舗への進出目指し参入する「楽天Pay」
2016年10月、楽天がQRコードによる決済サービス「楽天Pay」を開始した。利用者は楽天IDに登録したクレジットカードと楽天ポイントを利用して実施のリアル店舗で支払ができる。MPOSの国内最大シェアを持つ楽天スマートペイの加盟店は、そのまま楽天PayによるQRコード決済も取り扱えるので、サービス開始時から多くの店舗で利用できる。
「ECからリアル店舗への進出を模索していた楽天にとって、強力なツールができたことになる」と藤元氏は指摘し、2017年8月から始まったローソンの楽天Pay対応を足掛かりに加盟店を増やしていくと予測する。「一時期、ローソンが楽天ポイントカードの導入を準備中というリークがあったのですが、そういう意味では楽天はローソンとの提携には長い時間をかけて来たのでしょう」(藤元氏)
決済と送客は一体化する
「楽天ポイントが貯まるなら楽天Payを使うという人も一定数いるはずで、強い動機付けになります。ローソンで使えることで、QRコード決済の勢力図が一変するかもしれません」(藤元氏)ログイン会員数8,700万人を超える楽天ポイントの会員がアプリをダウンロードするだけで利用可能になるインパクトは大きい。さらに、楽天経済圏のリソースを利用してさまざまなポイントキャンペーンを展開し、楽天からローソンへの送客も可能になる。
「楽天は、これまでにもO2O(オーツーオー)への取り組みとしてチェックインするだけでポイントがたまる『楽天チェック』を提供していましたが、決済と紐づくことでようやく当初考えられていた世界観が現実になってきました」(藤元氏)もちろん楽天Payだけではなく、LINE PayもLINE Beaconと連動したクーポン配信の仕組みを用意している。クレジットカードにはできなかった「決済と送客の連動」が、スマホアプリとQRコード決済で可能になりつつある。
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