2020.07.14

芝麻信用(ジーマー信用)による「先消費、後払い」の時代

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お金が借りられる機能として、アリペイが提供するのは「花唄」(ホワベイ。中国語では花はお金を消費するの意味。お金を使おう!といった語感の名称)。

花唄の利用限度額を決めるのに使われるのが信用スコア「芝麻信用」(ジーマー信用)だ。主にアリペイの利用履歴から信用度を自動算出し、花唄の利用限度額を決めるのに使われている。芝麻信用や花唄の利用を促進するために、芝麻信用のスコアが高い人に対しては、ビザの申請がアリペイの中から審査を簡略化して行える、ホテル宿泊のデポジットが不要になるなどの特典が与えられている。

これを市民に序列を定めることにつながり、階級社会を生んでしまうと指摘をする人もいるが、芝麻信用のスコアが低いからといってデメリットやペナルティがあるわけではない。芝麻信用を利用するかどうかは自由なので、低スコアの人にデメリットを与えたら、芝麻信用の利用をやめられてしまうだけだ。

ただし、アリババとはまったく無関係の飲食店や結婚紹介所などで、芝麻信用のスコア提示を求め、「○○点以下の人はお断り」というルールを定めているところはある。それぐらいだ。あくまでも花唄の信用審査のコストを下げ、瞬時に利用限度額を算出し、花唄を利用しやすくする目的で使われている。アリペイのライバルであるWeChatペイも、同様の金融機能、信用スコアの仕組みを導入している。


これにより、中国は「先消費、後払い」時代に入っている。最近では新しい消費スタイルなので「新消費」と呼ばれることもある。中心になっているのは95后(95年以降生まれ)と呼ばれる20代前半だ。20代前半は、人生の中で最も物欲が強い時期であるのに、収入は子ども時代を除いていちばん低い時期にあたる。そのため、欲しいものがあったら花唄で買ってしまった方がいい。いわば、借金しても買うという消費スタイルだ。

「90后金銭感覚報告」(中国新経済研究院、アリペイ)によると、20代の若者の90%が、消費をするときに花唄などの利用を検討するという。また、余額宝などの投資信託を始める年齢も23歳前後が平均となり、親の世代と比べると10歳近く早くなっている。

中国ではよく新製品などのキャンペーンで、12回分割払い無利子というのが行われる。12回払いにしても、利子が不要というものだ。こういう商品を買いたい時に、お金を持っていたとしても多くの人が分割払いを選択する。そして、購入するはずだったお金は余額宝などの投資に回してしまう。本人たちに「借金」という感覚は薄く、金融の仕組みを賢く使いこなしていると考えている。これが中国の個人消費に大きく貢献していることは明らかだ。

このような新消費を否定的に見ている大人は多い。企業の口車に乗せられて借金生活をしているだけで、破綻をするリスクがつきまとうと忠告をする親世代もいる。しかし、若者に言わせると、これは借金ではなく、収入の平準化なのだという。中国ではこの30年、毎年給料は上がり続けてきた。つまり、若者にとって、今現在が常に収入が最低の時期にあたっている。一方で、物欲は強く、同時に自己投資をして、将来もっと稼げるスキルを身につける必要がある。そのためには、将来の収入を先に使って、消費をし、自己投資をしておくべきだと考えている。

実際、20代前半に売れているのは趣味関係の商品も多いが、資格試験教材や社会人教育の受講も多い。事業への投資と同じように、将来の収入を使って、今の自分に投資をする。そういう考え方の若者が増えている。
アリペイの金融機能は、こういう若者の考え方の変化によって、キラーサービスとなった。もはや、QRコード決済サービスではなく、マネーマネージメントサービスになっている。

Pay PayやLINE Payが金融機能を導入し始めているのも、先へ進んでいる中国のアリペイやWeChatペイの状況をよく見ているからで、うまく回れば、若者の可処分所得を(見かけ上)増やし、個人消費を押し上げることに貢献をする可能性がある。ただし、うまく回るためには、大きな前提条件を必要とする。それは、中国は経済成長のプロセスにあり、所得は年々増えているということだ。所得が増えていくのだから、今の所得だけで我慢をするより、将来の所得を使った方がいい。破綻をする確率も低い。





しかし、その前提が崩れようとしている。日本では長い間、ゼロ成長時代が続き、所得は上がらないものという認識が一般化をしている。中国も、コロナ禍により、経済成長は停止をし、先行きがどうなるかわからない時代に突入している。低成長時代においては「所得の平準化」という考え方は、きわめてリスクの高い消費方法になってしまうのだ。

はたして、日本のQRコード決済サービスの金融機能は広く受け入れられるだろうか。また、潮目が変わった中国の若者の消費意識はどのように変化をするのか。注目をしておく必要がある。(執筆:牧野 武文氏)


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