2022.08.29

キャッシュレス決済が自動販売機を変える 店舗の販売チャンネルとして活用が始まる自動販売機

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日本は世界でも有数の自動販売機大国だ。設置台数世界一は米国に譲るものの、人口比設置台数や販売金額では世界一になっている。これだけ普及をしたのは、他国と比べて人口密度が高く利用率が高いこと、治安がよく、屋外にも設置できることなどがある。欧米では屋内、しかも監視カメラのある場所に置くのが原則になっている。


もうひとつ重要なのが、硬貨の設計の優秀さだ。50円、100円、500円とそれぞれ白銅やニッケル黄銅と素材や大きさを変え、穴を開けるなど、障害のある人にも区別しやすい工夫がされていて、これが機械でも誤りなく金額を判別できることにつながっている。


その自動販売機も、コンビニの進出の影響により、2013年をピークに減少傾向が続いている。2021年末の段階で、270.85万台と前年から1.4%の減少になった。3%以上の減少もありえるという見方もあったが、日本自動販売システム機械工業界によると、コロナ禍による投資控えがあったものの、「人手不足の影響で不採算拠点の撤去が滞ったことなどから普及台数の減少幅が抑えられた」という。


ところが、台数が増えているジャンルの自動販売機がある。ひとつは食品自動販売機で7.28万台となり4.0%の増加となった。また、食券・入場券は4.8万台となり3.0%の増加となった。いずれも、非接触ということに着目し、特に食品自動販売機は、営業自粛や夜間の補助手段として、カレーソースやラーメン、餃子、弁当などの冷凍食品の自動販売機が目立つようになっている。購入をして、自宅に着く頃には程よく解凍され、後は電子レンジで温めて食べるというものだ。



このような食品自動販売機は中国でも注目され、冷凍食品だけでなく、果物や野菜といった冷蔵品、保温されていてすぐに食べられる料理などの販売も試みられている。さらに話題になっているが、新石器科技が開発した自動運転キッチンカーで、飲食店が料理をセットすると、駅前などの指定された場所まで自動運転で走行し、朝食や間食などを販売するという「走る自動販売機」まで登場している。大規模公園などでは、景観の問題から自動販売機を設置せず、走る自動販売機を採用しているところもある。園内を巡回していて、手を挙げたことを認識して止まってくれる。商品がなくなると、自動的に拠点に帰ってくるため、商品の補充の人手も省くことができる。


中国でこのような自動販売機が登場している背景には、スマートフォンによるコード決済が決済の中心になっているということが大きい。自動販売機にQRコードを読み取らせることで決済ができ、商品を買うことができる。

日本の自動販売機もより進化をして、食品の販売の重要な販売チャンネルになる可能性は秘めているものの、決済が大きな障害となっている。食品の場合は、価格帯が500円から2000円程度になり、硬貨だけでは間に合わず、紙幣が必要になる。紙幣の場合は投入操作がかなり煩わしく、両替の問題も発生する。自動販売機の活用の幅を広げるにはキャッシュレス化が必須になるのだ。



ところが、対面決済でクレジットカードやコード決済、交通カードというキャッシュレス決済を使う人は増えているが、自動販売機では今でも現金を使う人が多い。
少し古いデータになるが、「2019年5月キャッシュレスウィークとキャッシュレス利用に関する調査」(MMD研究所)では、キャッシュレス派と現金派のそれぞれに各シーンで、キャッシュレスを使うか現金を使うかを尋ねた。すると、現金派では80.5%の人が自動販売機では現金を使うと答え、キャッシュレス派でも46.2%の人が自動販売機では現金を使うと答えた。特に、キャッシュレス派では自動販売機が最も現金利用の多いシーンとなった。

現在では、自動販売機の多くはキャッシュレス決済に対応をしている。しかし、消費者の側はなかなかキャッシュレスで自動販売機を使おうとせず、現金を使い続けているのだ。
なぜ、自動販売機のキャッシュレス化は進まないのだろうか。


理由1:購入操作が複雑で煩わしい

最も大きな理由は購入のプロセスが複雑で煩わしいことだ。現金の場合は、小銭を入れるだけでいい。お釣りがある場合は自動的に計算されお釣りが出てくる。キャッシュレスの場合は、利用するキャッシュレス決済の種類を選ばなければならない。多くの場合、矢印キーでアイコンを選んでいかなければならない。
この「キャッシュレス決済の種類を選ぶ」というのが現金と比べて余計な手順になる。コロナ禍の現在、非対面、非接触が自動販売機のよさでもあるのに、ボタンに触れなければならないという問題もある。アイコンが小さくて見づらい。位置が目線よりも下にあり、しゃがむか膝を折らないと、液晶の視野角の問題で見づらい、屋外で逆光になると画面が反射して見づらいなど、数々の改良すべき点もある。
こんな面倒なら、財布を出して小銭を入れた方がずっと早い。キャッシュレスが進んだ現在、財布の小銭は溜まりがちだ。その小銭を消化するにもちょうどいい。キャッシュレス派でも自動販売機では現金を使いたくなる気持ちはよく理解できる。


理由2:クレジットカード対応自販機が少ないミスマッチ

日本のキャッシュレスはクレジットカードが中心になっている。ところがクレジットカードが利用できる自動販売機は少ない。多くの自動販売機がクレジットカードに対応はしているものの、実際はタッチ決済(コンタクトレス決済)のみだ。これを利用するには、クレジットカード側にNFC(近距離無線通信)チップが搭載されていなければならない。
カードの更新に合わせて、カード会社各社はタッチ決済対応のカードに順次切り替えていっているが、普及率はまだ低い。2022年3月時点でタッチ決済対応のクレジットカードは7100万枚を突破したが、カード全体の発行枚数は21年末時点で2.9531億枚なので、普及率でいうと24.0%ということになる。また、自動販売機で使えるカードと使えないカードがあるということ自体が、利用者を混乱させてしまう原因にもなっている。


理由3:購入プロセスが現金とは逆になっている

キャッシュレスで自動販売機を利用するには、購入プロセスが現金とは逆になっている点も混乱する要因になっている。現金の場合は、先にお金を入れて、それから商品を選ぶ。しかし、キャッシュレスの場合は、先に商品を選んでおいてから、決済を行う。逆になっているのだ。
これは、購入金額が確定をしないとキャッシュレス決済が実行できないため、先に商品を選んで支払い金額を確定させておく必要があるためにこうなっている。しかし、人間というのは慣れた手順を変えるのは簡単ではない。どうやって買ったらいいのかがわからず、自動販売機そのものを敬遠するようになってしまう。


このような問題点を克服して、成功している自動販売機もある。JR東日本の駅構内(エキナカ)に設置されている自動販売機「アキュア」だ。アキュアにはマルチマネー対応の自販機もあるが、JR駅に設置をされているのはSuica電子マネー専用機。現金は利用できず、利用できるのはSuicaと提携している交通カードのみ。

交通カードしか使えなくしたことで、購入プロセスが非常にシンプルになった。商品を選んで、カード端末部分に交通カードをタッチするだけ。スマホに収納したモバイル交通カードも利用できる。しかも、エキナカという場であるため、多くの人が交通カードを持っている。

利用シーンを考え、利用できるキャッシュレス決済を交通カードに限定することで成功している稀有な例だ。



今後、食品だけでなく、日用品の自動販売機も伸びていく可能性がある。そこで重要になるのが、自動販売機の位置付けだ。従来の空きスペースに置いて、利益を得るという副業の位置付けではなく、小売店の販売サブチャンネルと位置付けた利用に可能性がある。ミニ無人店舗としての活用だ。店舗の前に設置をし、店舗で扱っている商品を自動販売機で販売をする。テイクアウトをしたいだけの人は、店内に入らず、自動販売機で購入することができる。セルフで購入と決済をしてくれるため、店内での対応に余裕が生まれる。

さらに大きいのが、閉店時や定休日にも販売が可能になることだ。これは販売機会が拡大するという以上の効果を生む。閉店時や定休日にもやってくる顧客はいる。しかし、そのような顧客に悪い顧客体験を与えてしまう。特に閉店時間が周囲の店舗より早い場合や開店時間が遅い場合、定休日が平日である場合などには、閉店時に訪れた顧客の中には、「あそこの店は閉まっていることが多い」というイメージが刷り込まれてしまい、次回以降の来店を躊躇してしまうようになる。開店時間にもきてもらえなくなるかもしれない。そこに自動販売機があれば、顧客との関係をつなぐことができる。

このような販売のサブチャンネルとして自動販売機を活用する場合、キャッシュレス対応は必須になる。商品単価が500円を超える場合、現金決済では1000円札での利用が多くなる。しかし、一般的な自動販売機の場合、紙幣の収納枚数は100枚程度が限界なので、ほぼ毎日、紙幣の回収と釣り銭の補充をしなければならなくなる。また、店舗では1万円札の両替にも対応しなければならない。キャッシュレス対応自販機であれば、このような管理の手間も必要がなくなる。



このようなミニ無人店舗として活用するのであれば、店舗の顧客層にもよるが、今であれば現金に非対応のキャッシュレス専用自動販売機でも十分に可能性がある。ただし、問題は、多くの人がキャッシュレス自動販売機の購入手順に不慣れであるということだ。これも自店舗専用の自販機であれば、手書きのガイドなどを掲示することで対応することができる。そこに、商品に対する店主の思いなども織り込めば広告としても機能するようになる。


コンビニ各社はセルフレジの導入や無人店舗の実証実験などを盛んに進めている。このような無人店舗技術の開発、導入には莫大な資金が必要で、大手チェーンでなければできないことだ。しかし、個人経営の店舗でも、自動販売機という既存技術と普及をしてきたキャッシュレス決済を組み合わせることで、ミニ無人店舗を出店して、店舗の売上を補ったり、新たな商機を探ることはじゅうぶんに可能だ。店舗小売ではキャッシュレス自動販売機が大きな販売チャンネルになる可能性が出てきている。
(執筆:牧野 武文氏)




図1:2021年12月現在の自動販売機普及台数と前年比。食品自動販売機と食券・入場券の券類自動販売機が伸びている。「普及台数」(日本自動販売システム機械工業会)より引用。
https://www.jvma.or.jp





図2:販売系の自動販売機の種別割合。ほとんどが缶やペットボトルの飲料だが、食品の自動販売機が増加傾向にある。普及台数」(日本自動販売システム機械工業会)より作成。
https://www.jvma.or.jp




図3:中国ではミニ無人店舗の感覚で、自動販売機が活用されている。スマホ決済で食品を購入できる。在楼下の公式サイトより引用。
http://www.zailouxia.com




図4:新石器科技は、走る自動販売機を開発している。指定した場所に自動運転で走っていき、販売が終了すると拠点に自動で戻ってくる。購入者がスマホ決済をすると扉が開くようになり、商品が取り出せる。すでに地下鉄の駅前や公園などの朝食、飲料などの販売に使われている。新石器科技の公式サイトより引用。
http://www.neolix.ai/solution.html







図5:自動販売機では現金を使う人が多い。現金はでは80.5%が、キャッシュレス派でも46.2%が現金を使っている。「2019年5月キャッシュレスウィークとキャッシュレス利用に関する調査」(MMD研究所)より引用。
https://mmdlabo.jp/investigation/detail_1800.html

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