タッチ決済、コンタクトレス決済の次はタッチレス決済 開発が進む、通るだけで開く改札、タッチレス決済レジ

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決済は、バーコードやタッチ決済、ICクレジットカードなど、さまざまなものが使われていて、加盟店の関係者は機器の選定や従業員の研修に頭を悩ませているのではないだろうか。そんな状況のところに、あるいはそんな状況だからこそ、タッチ不要のタッチレス決済が現実のものとなろうとしている。改札であれば通るだけ、レジであれば前に立つだけで、持っているスマートフォンなどの決済端末と無線通信が行われ、決済が完了するというものだ。


すでにNTTドコモでは、おサイフケータイでのタッチレス決済システムの試作開発を始めている。このタッチレス決済では、スマートフォンを持った消費者が、決済エリアと呼ばれる場所に立つだけで決済ができる。レジ側は今まで通り支払いの操作をする必要があるが、消費者側はポケットやバッグにスマートフォンを持っているだけで、取り出すことなく、操作することなく、決済が完了する。決済データは無線でやり取りをされる。



このNTTドコモの研究で使われている無線技術は、UWB(Ultra Wide Band、超広帯域中距離無線通信技術)と呼ばれるもので、送受信するデバイスの距離を±10cmほどの精度で測定できることが特徴だ。また、電波の発信源の方向も測定ができるため、高い精度で相手のデバイスがどこにあるかを決定することができる。
このUWBの技術は、すでに自動車のデジタルキーなどに採用され始めている。自動車窃盗犯が使い始めているリレーアタックという手法に対抗するためだ。自動車のデジタルキーは複雑な認証システムが採用されているが、簡単に言えば、特定の信号を送れば自動車のドアの鍵が開く仕組みになっている。Bluetoothを利用したスマートキーであれば、電波が届く範囲=自動車の近くにくると自動的に鍵が空き、電波が届かない範囲=自動車から離れると、自動的に鍵が閉まる。自動車とスマートキーの間でやりとりする信号は車体によって違っているため、他の車が間違って開いてしまうようなことはない。

リレーアタックは、この車とスマートキーの信号を中継してしまうというものだ。特定の電波を受信して転送する機器を持った2人が組んで行う。車の持ち主が駐車場に車を停めて、カフェに入った。持ち主が座った席のすぐそばに犯人が座り、鍵の信号を中継する。もう1人の犯人は車にいて、中継機を車のそばに近づけると、車はあたかも鍵がすぐそばにあるのだと勘違いをしてドアを開けてしまう。犯人はそのままエンジンをスタートさせて、乗り逃げしてしまうという手口だ。


このリレーアタックが、UWBでは使えなくなる。常に車と鍵の距離を測定するからだ。測定の仕方は特定の信号を出して帰ってくるまでの時間を測るというもの。リレーアタックのような中継機を使った場合でも、距離が長くなるか検出できず、車のそばにいないと判定されるため、鍵が開かない。
この仕組みを利用して、レジではスマートフォンを持った消費者がいる場所を測定し、決済エリアの中にいるかどうかを特定する。


同じ技術が、鉄道の改札にも応用されようとしている。JR東日本では、通過をするだけで交通カード決済ができる自動改札の研究開発を行なっている。使われているのはUWBではなくミリ波だが、天井に設置されたミリ波アンテナが改札の通路にボックス状の決済エリアをつくり、そこをスマートフォンなどの端末を持った人が通過をすると、決済をするというものだ。今の改札のように、交通カードやスマホをタッチさせる必要もなくなる。


JR東日本の試作機の評価では、さまざまな課題が発見されたが、すでに複数人検知(1人が決済端末をもち、もう1人が決済端末を持たず、一緒に通過して1人分の乗車賃をごまかそうとする行為を検知)も実運用基準をクリアしている。また、2020年に東京・高輪ゲートウェイ駅で開催されたTkanawa Gateway Festにも出展し、800人の一般客に実際に使ってもらったところ、JR東日本が試作開発をしている4つの新サービスのうち、タッチレスゲートが最も期待をされるという結果になった。



中国では、以前から顔認証改札が一部の地下鉄で導入されている。成都市地下鉄では、すでにマスクをしていても顔認証が可能な改札が導入され、運用されている。しかし、顔認証は処理時間が長く、日本の交通カード「Suica」は1分あたり45人の乗降客を処理することが標準とされているが、顔認証改札の場合、30名程度であるという。そのため、ラッシュ時の改札効率を高めるためではなく、優待乗車などに利用される傾向が出てきている。高齢者や障害者、軍関係者の割引乗車をする時には、特別なパスを発行するのはコストがかかる。かといって、職員が身分証などを確認して割引対象であることを確認するのも人手がかかる。そのため、割引対象者にはあらかじめ顔を登録してもらい、普通に改札を通るだけで割引が適用されるなどの利用に活用されている。


また、深圳市の交通カード運営企業「深圳通」とGOODiXは協働で、UWBを利用したタッチレス改札を開発し、展示会などで展示を始めている。また、深圳通はスマホメーカーvivoと協働でデジタル人民元を使って決済ができるタッチレス改札の試作開発も行なっている。このようなタッチレス改札は、重たい荷物を持っていることが多い長距離鉄道や空港鉄道の改札の利便性を向上させるものとして期待されている。


日本のカードをタッチするタイプの改札は、タッチする部分が斜めに設計されていることにお気づきだろうか。あれはタッチをしやすいということもあるが、忘れ物をしない工夫にもなっている。海外の改札ではタッチ部分が平らになっているタイプのものもあり、信じられないことに、そこに交通カードやクレジットカード、スマホを置き忘れていってしまう人が一定数いるのだという。そこまでうっかりしなくても、改札付近ではカードやスマホを出し入れするために、落とし物が多くなっている。このような問題も、タッチレス改札で解決される。


決済は、現金からIC(コンタクト決済)、タッチ決済と進み、今はタッチレス決済に進もうとしている。



このような話をすると、「といっても研究中の話であって、実現は10年先とかなのでしょう?」と感じる人がいるかもしれないが、UWBを使った技術はすでに身近なところで使われている。先ほど紹介した自動車のスマートキーが一例だが、最も身近なところではアップルのAirTagがUWBを使った製品だ。AirTagは、iPhoneやiPadからいつでも場所を確認できるデバイスだ。キーホルダーにしたり、スーツケースに取り付けておくと、なくしてしまってもiPhoneからすぐに場所を確認することができる。
このAirTagは、まずBluetoothを使って近くにあるかどうかを検出し、その後、UWBを使って精密な距離測定をするため、室内のどこにあるかまでを知ることができるようになっている。


また、AirDropでもUWBが利用されている。AirDropはiPhone同士でワイヤレスで簡単に写真などのデータを送受信できる仕組みだが、Bluetoothを利用しているため、送信先に近くにいる人全員が表示されてしまい、間違った人に送信をしてしまうことがあった。それがUWBを使うことで、iPhoneを向けている方向の人が優先して表示されるようになり、間違って送ることが少なくなった。

すでにUWB技術は自動車のスマートキーやiPhoneといった身近なデバイスに搭載され使われている。改札やレジなどに使われ始めるのも、10年などという先の話ではなくなっている。決済系テクノロジーの進化はまだまだ止まりそうがない。


(執筆:牧野 武文氏)




図1:NTTドコモではタッチレス決済の研究開発を進めている。端末を持った消費者が決済エリアに立つだけで、決済が完了する。「UWB測距技術を用いたおサイフケータイのタッチレス機能実用化検討」(移動機開発部・村上真衣子ほか)より引用。





図2:JR東日本が研究開発をしているタッチレス改札の概念図。使われている技術は、UWBとは異なるが、考え方は同じ。「ミリ波を活用したタッチレスゲートの研究」(會田泰葉ほか)より引用。





図3:中国のテック企業「GOODiX」では、深圳市の交通カード運営企業「深圳通」と、タッチレス改札を共同開発し、すでに展示会などでの公開展示を始めている。GOODiX公式サイト(https://www.goodix.com/zh/about_goodix/newsroom/industry_news/detail/14969)より引用。




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