インバウンド旅行客はどのキャッシュレス決済を使いたいと考えているのか 韓国、香港はクレジットカード、中国はスマホ決済、台湾はLINE Pay | PCI DSS Ready Cloud

インバウンド旅行客はどのキャッシュレス決済を使いたいと考えているのか 韓国、香港はクレジットカード、中国はスマホ決済、台湾はLINE Pay

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インバウンド旅行客がのぞむキャッシュレス決済

商店を経営する方々は、インバウンド旅行客が戻ってきたことを実感されているのではないだろうか。日本政府観光局(JNTO、https://www.jnto.go.jp)の統計によると、最大のインバウンド元である韓国からの2023年1-2月の渡航者数は約150万人、2019年同時期の75%まで戻ってきた。この時点では中国からの入国に制限があり、中国からの回復率は4.5%と低いが、今後、中国からも多数の人が訪れてくれることになる。また、ベトナム、シンガポールからは、リベンジ旅行もあって、2019年より多くの人が日本を訪れるようになっている。観光業、飲食業の方々にとっては、長かったコロナ禍の終わりがようやく見えてきたのではないだろうか。

インバウンドに関して、アジア太平洋研究所(https://www.apir.or.jp/)がユニークなレポート「APIR Trend Watch No.68:インバウンド需要におけるキャッシュレス決済についての分析」(https://www.apir.or.jp/wp/wp-content/uploads/APIR_Trend_Watch_No.68_Final.pdf)を公表している。2019年というコロナ前に、関西地区に旅行にきた外国人404名にどのような決済手段を使ったかを尋ねたアンケート調査を元にした分析だ。コロナ前の調査であり、サンプル数も多くはないために、あくまでも参考データだが、さまざまなヒントを読み解くことができる。

注目しなければならないのは、どの国のインバウンド旅行客も現金を使う割合が、1/3から1/2程度あることだ。「キャッシュレス決済対応について、ご自身の国と比べて進んでいるかどうか」との問いには、北米を除いてNoと答えた人の割合の方が多かった。つまり、「日本はキャッシュレス決済があまり進んでいない国」と認識されていて、用心のために現金が使われているのではないかと考えられる。

そこで、このレポートから各国のインバウンド旅行客が日本でどのような決済手段を使ったかをご紹介し、同時に本国内での決済手段と比較をしてみたい。つまり、インバウンド旅行客が「ほんとうに使いたい決済手段」が見えてくる。そのような旅行客が本当に使いたい決済手段にいち早く対応することで、インバウンド需要をしっかりととらえることが可能になる。


国ごとのキャッシュレス決済


韓国:クレジットカードとデビットカード

韓国は世界一のキャッシュレス大国で、キャッシュレス比率は96%を超え、もはや現金を見かけることはほとんどなくなっている。しかし、日本に旅行にきた場合は決済の半数近くが現金になる。クレジットカードが使えないところがあるからだ。例えば、インバウンド旅行客の間では、交通カード「Suica」はすでに有名な存在になっていて、現金だけでなくクレジットカードでもチャージができることもよく知られている。しかし、クレジットカードからチャージをするには多機能券売機を探す必要があり、駅でよく見かける自動券売機では現金でしかチャージができない。この違いは外国人にはなかなか理解しづらい。そのため、日本にくると現金をある程度持ちたくなってしまうのだ。
また、韓国はクレジットカード一辺倒だったが、最近はデビットカードを持つ人も増えている。クレジットカードだと簡単に分割払いなどができてしまうために、使いすぎてしまう人が多く、銀行口座と直結したデビットカードをメインにする人が増えている。world payの2019年の調査によると、クレジットカードの決済シェアは57.4%だが、デビットカードも20.0%になっている。多くの人がVISAなどの国際ブランドに対応したデビットカードを使っているため、日本の商店でも国際ブランドデビットカード決済に対応をしておく必要がある。

中国:スマホQRコード決済

中国人インバウンド旅行客は、日本では現金、カード、QRコード決済をほぼ同じ割合で使っている。中国もキャッシュレス比率は80%台後半で、ほぼ現金は見かけなくなっている。日本で現金を使うのは、キャッシュレス決済が使えない場所がまだまだ多いからだ。
中国内では、QRコード決済である「支付宝」(アリペイ)と「微信支付」(WeChatペイ)が主流で、クレジットカード/デビットカードに相当する銀聯カードは使う人が減少をしている。また、国際ブランドのクレジットカードは中国内では使える場所が非常に少なく、所有している人もごくわずかだ。クレジットカードを持っているのは、海外によく出かけることの多い人たち、比較的経済的な余裕がある人になる。高額商品を扱う商店では、クレジットカード対応が有効になる。
一方、普通の中国人は日本にきても、アリペイかWeChatペイでの決済を好む。日本国内でも、多くの決済代行業者がアリペイ、WeChatペイを扱っているため、対応するのも難しくはない。
また、日本のコード決済「PayPay」は、アリペイにも対応をしている。PayPayと同じQRコードで、アリペイでの決済もできるようになっている。中国人インバウンド旅行客に対しては、アリペイ、WeChatペイに対応をするのが必須だ。


台湾:クレジットカード主流だがLINE Payも

台湾も日本と同じで、現金とクレジットカードが主体だったが、近年、若い世代を中心に増えているのがLINE Payだ。台湾、タイではSNSとしてLINEを使っている人が多く、その決済手段であるLINE Payはスマホ決済としては最も大きなシェアをとっている。このLINE Payは、日本、台湾、タイ、韓国で相互乗り入れをしている。つまり、台湾のLINE Pay利用者は、日本のLINE Pay加盟店で支払いをすることが可能だ。通貨の両替などは自動で行われる。また、日本のLINE PayとPayPayは相互乗り入れをしているため、台湾のLINE Pay利用者は、日本のPayPay加盟店で、台湾のLINE Payを使って決済ができる。ただし、PayPay加盟店で利用できることを知らない人が多いため、スタッフが仕組みをよく理解し、戸惑う台湾人インバウンド客に適切な案内ができるようにしておく必要がある。
また、台湾では交通カード「悠遊カード」(ヨウヨウ、EasyCard)もコンビニなどの決済に対応しており、少額決済でよく使われる。沖縄県琉球銀行は、沖縄県の加盟店に悠遊カード決済のサービスを提供している。さらに、台湾でよく使われるスマホ決済「街口支付」(ジエコウ、JKO Pay)も日本でのサービス提供を始めている。これも若い世代を中心に利用が広がっているスマホ決済だ。
台湾人インバウンド旅行客を獲得するには、クレジットカード以外のLINE Pay、悠遊カード、街口支付に対応することが大きな力になる。


香港:クレジットカード

香港人インバウンド客は、日本でもクレジットカードと現金を主に使っているが、利用者の世帯年収に明らかな傾向の違いが見える。高所得者はクレジットカードを使い、低所得者が現金を使う傾向がある。
香港も日本と同じようにキャッシュレス比率の低い地域だったが、コロナ禍以降、急速にキャッシュレス決済比率があがっている。特に2021年から毎年、経済回復のための消費補助金を配布しているが、これをキャッシュレス決済で受け取るようにしたことでキャッシュレス決済を使う人が増えている。中国のアリペイ、WeChatペイの香港版もあるが、よく使われるのは交通カード「八達通」(オクトパスカード)だ。オクトパスカードは日本でサービスを提供していないが、台湾はオクトパスカードを台湾内で利用できるようにする計画を進めている。


タイ:独自スマホ決済が主流だがLINE Payも

タイのキャッシュレス決済比率は80%を超えており、日本よりもはるかに進んでいる。その決め手となったのが、政府が後押しをするスマホ決済「Prompt Pay」だ。タイでは銀行口座の保有率がなかなかあがらないという課題を抱えていたが、個人番号(マイナンバー相当)だけで開設でき、決済と個人送金が可能なPrompt Payが登場したことで一気にキャッシュレス決済が進んだ。
注目すべきは、交通カード「Rabbit」と提携したRabbit LINE Payが大きなシェアを持っていることだ。このLINE Payも台湾のLINE Payと同じく、日本のLINE Pay加盟店、PayPay加盟店での決済が可能だ。ただし、日本で決済するにはいくつか条件があるため、これも加盟店側で把握をして、タイ人インバウンド客に適切な案内ができるように準備をしておく必要がある。


米国、欧州:クレジットカードのコンタクトレス決済

米国、欧州ともに日本での決済の半分近くが現金になる。欧米ではクレジットカードが普及をし、さらにコンタクトレス決済やApplePay、GooglePayといったスマホウォレットなど、クレジットカードを中心にしたキャッシュレス決済が普及をし、日常の少額決済でもクレジットカードまたはデビットカードを使うのがあたりまえになっている。日本でもクレジットカード加盟店は増えているが、少額決済を中心にした飲食店などではまだまだ使えないところも多いため、日本では現金を使うのだと推測される。
欧米ではコンタクトレス決済への対応が早く始まり、オーストラリアなどではすでにコンタクトレス決済の方が主流になっている。クレジットカード各社は、磁気ストライプ方式の廃止を段階的に進めているが、欧米のインバウンド客は磁気ストライプ方式の決済であればクレジットカードを使わないという人が増えている。磁気ストライプ方式の決済では不正利用のリスクがあるためだ。また、ICカード方式でも、差し込んでPINコードを入力するのが煩わしいと感じるようになっている。
米国、欧州のインバウンド客を獲得するには、クレジットカードのコンタクトレス決済に対応しておく必要がある。


2020年の世界の地域別のPOS payment methodsの統計情報

worldpayでは、2020年の世界の地域別のPOS payment methodsの統計を公開している。これはレジ決済の方式、つまり対面決済でどのような決済手段を使ったかという統計だ。
この統計を一覧すると、地域により、使われる決済手段が大きく異なっていることがわかる。
1)欧州ではデビットカードが多く使われる
2)アジア太平洋ではスマホ決済が多く使われる(中国の影響が大きく、中国以外の国では状況が異なる)
3)北米ではクレジットカードが多い
4)南米、中東ではまだ現金が多い。

キャッシュレス決済は、知らない外国で使うのには勇気がいる。現金なら言われた金額分のお金を渡すだけだが、キャッシュレス決済の場合、設定が違っている、通信状況が悪いというよくわからない理由で決済に失敗することがある。一方で、この店ではこの決済方式で支払えるということがわかってしまえば、勝手のわからない外国では助かるために、滞在中に何度も利用してくれるようになる。どのキャッシュレス決済に対応しておくかは、インバウンド旅行客を獲得する大きな武器になる。どの地域からのインバウンド客が多いかで、対応をするキャッシュレス決済を考える参考にしていただきたい。(執筆:牧野 武文氏)


図1:2019年1-2月の国別インバウンド旅行客数と2023年1-2月の回復率。上位国はまだ回復率が60%から70%程度だが、ベトナム、シンガポールからはすでにコロナ前以上の人が訪日している。日本政府観光局の統計より作成。


図2:訪日韓国人客は、日本では現金とクレジットカードを主に使い、世帯収入が多いほど決済回数が多くなる。「APIR Trend Watch No.68:インバウンド需要におけるキャッシュレス決済についての分析」(アジア太平洋研究所)より引用。


図3:中国人は自国ではほとんどの決済をスマホQRコード決済を使うが、日本では現金、QRコード、カードがほぼ1/3ずつになる。「APIR Trend Watch No.68:インバウンド需要におけるキャッシュレス決済についての分析」(アジア太平洋研究所)より引用。


図4:訪日中国人の世帯年収別の決済手段。高所得者はクレジットカード、低所得者は現金、QRコード決済、デビットカードという傾向がありそうだ。「APIR Trend Watch No.68:インバウンド需要におけるキャッシュレス決済についての分析」(アジア太平洋研究所)より引用。



図5:PayPayでは、中国の「支付宝」(アリペイ)のロゴのついたPayPay用QRコードも発行している。訪日中国人のほぼ全員がアリペイを使っているため、利便性は高い。PayPay公式サイトより引用。


図6:台湾はクレジットカードと現金が主流だが、若い世代の間ではLINE Payの利用が高まっている。台湾のLINE Payは、日本のLINE Pay加盟店、PayPay加盟店で決済ができる。「APIR Trend Watch No.68:インバウンド需要におけるキャッシュレス決済についての分析」(アジア太平洋研究所)より引用。


図7:PayPayは、LINEPay、アリペイでの決済もできるようになっている。2つのロゴを入れたステッカー、QRコードも配布されているため、このようなステッカー、QRコードを使うことで、インバウンド客に気づいてもらえる。LINE Pay公式サイトより引用。


図8:香港はクレジットカードか現金。高所得者はクレジットカード、低所得者は現金を使う傾向がある。「APIR Trend Watch No.68:インバウンド需要におけるキャッシュレス決済についての分析」(アジア太平洋研究所)より引用。


図9:世界の各地域の対面での決済手段の比率。地域により大きな違いがある。「The Global Payments Report」(worldpay from FIS)より作成。

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