対面決済では、クレジットカード、電子マネー、コード決済と決済手段が増え、対応に苦労をした店舗経営者も多かったはずだ。一方、オンラインの非対面決済(ECなど)では、これまでクレジットカード(含むデビットカード)が主体だった。しかし、この数年、特にコロナ禍以降、BNPLと呼ばれる新しい決済手法が登場し、急速に成長をしている。
BNPLとはBuy Now Pay Later(今買って、後で払う)の略で、簡単に言えば後払い決済のことだ。日本では、Paidy(ペイディ、
https://paidy.com)とNP後払い(
https://np-atobarai.jp/about/)が主要なもので、アマゾンやアップルストアを筆頭に、さまざまなブランドのD2Cサイトが対応するようになっている。
世界では、2020年のオンライン決済の2.1%がBNPLとなっており、2024年には4.2%に成長すると予測されている。また、最も進んでいる欧州では、2020年に7.4%がBNPLで決済され、2024年には13.6%になると予測されている。これに米国、中国が追従しており、日本でも見過ごすことのできない決済手段になることは確実だ。
すでに、アマゾンやアップルストア(オンライン)、ビックカメラ.comに採用されているPaidyの場合、スマホアプリでアカウント登録(運転免許証などで本人確認)をすると、簡単な審査で即時に使うことができる。
ECサイトで、決済時に電話番号とメールアドレスを入力、スマホに届いた確認コードを入力することで決済ができる。数日以内にメールなどで請求金額が通知をされるため、翌月10日までにコンビニなどで支払いをするというものだ。
このBNPLは、分割払いを選択しても手数料や利子がかからないのが特徴で、若い世代が高額商品を購入するときによく使われている。イメージとしては、PCやスマートフォンなどの電子製品、テレビなどの大型家電製品、コートなどの高価格帯の服飾品、趣味の製品などで使われることが多い。なぜ、BNPLは急速に拡大をしているのだろうか。
BNPLが若い世代に受け入れられているのには、3つの理由があると言われている。
1:審査が不要で使うことができる
BNPLは審査が不要、または簡単な審査で、登録後すぐに使うことができる。若い世代はコロナ禍で職が不安定になっており、クレジットカードの審査に落ちることが増えてきている。また、数営業日かかるクレジットカード審査そのものを嫌う傾向があり、すぐに利用が開始できるBNPLを利用する人が増えている。
2:分割手数料が不要または少ない
BNPLのサービスによるが、分割払いの手数料が不要なところが多い。Paidyでは3回までの分割払いが手数料無料になっている。また、30日後払い、60日後払い、毎月定額払い(リボリング払い)なども手数料不要か少額に設定しているところが多く、支払い計画を立てやすい。もちろん、クレジットカードのような年会費も不要だ。
3:支払いに対するプレッシャーが少ない
若い間は、銀行口座に余裕があまりなく、クレジットカードの引き落とし日に残高不足が起きて、決済事故になってしまうことがしばしばある。しかし、クレジットカードの決済事故は社会的責任が重く、督促期間をすぎても支払えない場合は、事故記録が残ってしまう。この記録が残ると、後に自動車ローンや住宅ローンを申請した場合、拒否される可能性が高くなる。
しかし、BNPLでは、決済事故を起こせば、もちろん督促をされ、それでも支払わないと法的手段を取られることは同じだが、決済事故の記録はその運営企業の中だけで共有され、業界全体で共有をされることはない。そのため、決済事故を起こしても、他社のローン審査などに影響することがない。
では、BNPL事業者は、どこから収入を得ているのだろうか。それは加盟店が決済額に応じて支払う手数料を主な収入源にしている。クレジットカードと基本的には同じだ。
しかも、手数料の料率はクレジットカードよりも高くなっている場合が多い。そうすると、加盟店はなぜ割高なBNPLを利用するのだろうか。
その最大の理由は、コンバージョン(利用者が購入に至る割合)を大きく改善できるからだ。BNPLでトップシェアを握るスウェーデンのKlama(クラーマ、
https://www.klarna.com/us/)では、「コンバージョンを30%上昇」「平均客単価を41%上昇」とアナウンスしていて、この改善ができるのであれば、多少高い手数料を支払ってもじゅうぶんな投資効果があると判断をしている。
ECで、利用者が商品を購入するためにカートに入れておきながら、実際は買わなかった商品の割合は、俗に「カゴ落ち率」(Cart Abandonment Rate)と呼ばれる。Payment Instituteが、48のカゴ落ち率調査レポートを再集計したところ、平均のカゴ落ち率は69.99%になった。ほぼ70%で、これはECの利用者が10の商品をカートに入れて、3つしか実際には購入していないことを意味している。
このようにカゴ落ち率が高い理由は、気になる商品はとにかくカートに入れてしまい、カート内の商品一覧を見ながら、購入するかどうかを検討する人が増えていることと関係している。特に若い世代では、ECのお気に入りリストの使い勝手がよくなく、商品を次から次へとカートに入れていくのは気持ちのいい作業でもあるため、カートをメモ代わりに使う人が増えている。その後で、商品の一覧を見ながら、実際に買う、買わないを決めていく。
この時、誰もが自分の懐具合と相談をすることになる。分割払いやリボ払いをすれば支払いを先に伸ばすことができるが、高額の手数料が取られることもわかっている。ところが、BNPLでは分割払いにしても手数料が取られない。そのため、購入に対するハードルが低くなり、高額商品を中心にカゴ落ち率が改善される。
2つ目の理由は、新規のECが次々と登場していることだ。近年の企業は、大手ECのプラットフォームにも出店をするが、自社で直販ECを運営することが増えている。D2C(Direct to Consumer)という考え方で、顧客と直接つながろうとする。商品に対する意見を集めることで商品の改善が進み、直接消費者に訴えかけることでファンになってもらい、リピート購入をねらい、LTV(Life Time Value、生涯顧客価値)を高くしようと考えている。
ところが、消費者から見ると、初めてのECにクレジットカードを登録するのは躊躇をする。個人情報が守られるのか、商品に問題はないのか、知るすべがないからだ。しかし、自分が使っているBNPLに対応をしていると安心ができる。個人情報が漏れる不安はなく、しかも支払いは30日後なので、届いた商品に問題があれば、BNPLの顧客センターに連絡を取り、支払いを拒否してしまえばいい。即時に決済されず、後で支払えばいいということが安心感を生んでいる。
Klamaでは、新規顧客の購入率が40%上昇するとアナウンスしている。
3つ目の理由は、最近では、服飾品やシューズなどのサイズがある商品を購入する時に、3つの異なるサイズや、3つの異なるカラーバリエーションを注文し、実際に現物を見てから不要な2つを返品するという買い方をする人が増えていることが関係している。このような買い方を暗黙で認めているECが増えている。
アマゾンでは、プライム会員向けに Prime try before you buyというサービスを提供している。対象商品であれば異なるサイズ、色を最大4点まで注文でき、不要になった商品をコンビニなどから返送すればいいというサービスだ。もちろん、送料、返送料は不要で、支払いは1つの商品のみになる。
このようなサービスを提供していないECでは、3つ注文して2つ返品をして返金を受けることになるが、クレジットカードではこの返金手続きが面倒で、時間もかかる。しかし、BNPLであれば、3件の支払いのうち、2件がキャンセルされるだけで済む。これにより、サイズが存在する商品でもECでためらうことなく購入できるようになる。資金に余裕のない直販ECなどでも、アマゾンと同様のサービスを提供することも可能になる。
つまり、BNPLは消費者側のメリットも大きいが、加盟店(EC)側のメリットが相当に大きい。加盟店にとっては決済手段のひとつというよりも、客単価やコンバージョンを改善するマーケティングツールのひとつとして導入が進んでいる。特に知名度がまだないブランドの場合、主要BNPLに対応することで、新規顧客に安心感を与えることができる。
このような理由から、今後もBNPLの導入は進み、利用者も増えていくことになると見られている。また、Paidyでは対面決済でBNPLが利用できるバーチャルカード、リアルカードの発行も行っている。VISAのマークのある店舗では、VISAのクレジットカードと同じように利用ができ、支払いは通常通りのコンビニなどからの後払いとなる。
欧米では、クレジットカードの基本はリボルビング払いになっている。毎月の支払額を抑え、平準化できるツールとしてクレジットカードが使われている。日本の1回払いが主体の使い方とは大きく異なっている。
しかし、この数年、分割払い、リボ払いの手数料負担を気にする人が増え、特に若い世代では銀行口座に直結し、即時に決済されるデビットカードの人気が高まっている。しかし、デビットカードには、分割払い、リボルビング払いの機能がない。そこに登場したのが、分割、リボ手数料が無料または低額のBNPLなのだ。
日本ではクレジットカード利用の多くが1回払いで、欧米のデビットカードのような感覚で使っているため、欧米並みにBNPLが普及かどうか微妙なところがある。しかし、まだ知名度のない振興ブランドが直販ECを展開する場合などは、大手BNPLを導入していること自体が一種の保証の裏付けになることもあり、若い世代をねらった直販EC、D2Cでの導入が進む可能性はじゅうぶんある。EC運営者、EC加盟店経営者、これから直販ECやD2Cを展開していく担当者は、日本であれば「Paidy」と「NP後払い」の2つをよく研究をしておくことをお勧めする。
(執筆:牧野 武文氏)
図1:アップルストアオンラインでは、Paidyアップル専用プランを導入している。iPhoneの場合は、36回まで手数料0%での分割払いが可能になり、さらに24回まで支払うと、下取りを前提にした新機種買い替えオプションがついている。一括よりも分割払いにした方が特典が多い。
図2:アマゾンではプライム会員向けにtry before you buyサービスを提供している。4つまでのサイズ、色違いの商品が送られてきて、自宅で試して、不要な3つを返送する。アマゾンの場合は、購入製品が確定をしてから決済をするが、決済タイミングはその分遅れる。体力のあるECだから可能なサービスだ。しかし、BNPLを利用すれば、直販ECでも同様のサービスが可能になる。
図3:Paidyのアプリ。アマゾン、Yahoo!ショッピング、メルカリ、ZOZOTOWN、ビッグカメラ.comなど大手から、D2Cのブランド直販ECまで、若い世代が利用するECはほぼ利用可能になっている。
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構成/監修者
滝村 享嗣 氏
株式会社リンク セキュリティプラットフォーム事業部 事業部長
群馬県高崎市出身。1999年、新卒で大手商社(情報通信系サービス)に入社。その後、ITベンチャーの営業責任者、ソフトウエアベンチャーの営業/マーケティング/財務責任者に従事。2011年にリンクに入社し、セキュリティプラットフォーム事業の事業責任者として、クレジットカード業界のセキュリティ基準であるPCI DSS準拠を促進するクラウドサービスなどを企画・事業化している。