1. ガイドラインの目的と背景
本ガイドラインは、クレジットカード取引の安全性を確保するため、割賦販売法に基づくカード情報の保護や不正利用防止の義務を具体化します。EC取引の急増や新たな不正手口(例:フィッシング、クレジットマスターアタック)に対応し、事業者にセキュリティ対策を提示。6.0版では、EC加盟店の脆弱性対策と不正ログイン対策を新たに規定し、カード会員の利便性と安全性の両立を目指します。
2. 主要な改訂内容
(1) EC加盟店のセキュリティ対策の強化
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脆弱性対策の必須化
EC加盟店は、カード情報漏洩防止のため、以下の5つの対策を実施する必要があります:
- 管理画面のアクセス制限:ID/パスワードの適切な管理や多要素認証を導入し、不正アクセスを防止。
- データディレクトリの設定:機密情報が公開されないよう、ディレクトリ設定の点検や不要データの削除。
- ウイルス対策:マルウェア対策ソフトの導入と定期的なスキャン。
- Webアプリの脆弱性対策:ウェブアプリケーションのセキュリティ強化(例:SQLインジェクション対策)。
- 有効性確認・クレジットマスター対策:不正なカード番号入力防止(例:連続試行の制限)。
これらの対策は、ECサイトの脆弱性を悪用した不正アクセスを防ぎ、カード情報の安全性を確保します。
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申告と確認プロセス
新規契約時、EC加盟店はセキュリティ対策の実施状況を申告書に記載し、アクワイアラーや決済代行事業者(PSP)に提出。アクワイアラーやPSPはこれを確認し、対策の適切性を評価。既存加盟店も、契約更新時や必要に応じて同様の確認が行われます。
(2) EMV 3-Dセキュアの原則必須化
- 導入時期:2025年4月以降、すべてのEC加盟店でEMV 3-Dセキュア(3Dセキュア2.0)の導入が原則必須。
- 認証方式の高度化:イシュアーは、静的パスワードから動的パスワード(例:ワンタイムパスワード)や生体認証への移行を推進。リスクベース認証の活用を推奨し、不正取引の検知精度を向上。
- メリット:カード会員の本人認証を強化し、不正利用を抑制。真正な取引を円滑に処理し、利便性を維持。
- イシュアーの役割:カード会員に対し、EMV 3-Dセキュアの登録や認証方式変更の周知を推進。
(3) 不正ログイン対策の導入
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対象場面:ECサイトの「会員登録」「会員ログイン」「属性情報変更」の場面で、不正ログイン対策が必須。
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具体策:以下の8つの対策から少なくとも1つを導入:
- 強固なパスワードポリシーの設定(例:長さや複雑さの要件)。
- 多要素認証の導入(例:パスワード+SMS認証)。
- 不正ログイン検知システム(例:異常なログイン試行の監視)。
- CAPTCHAやリバースチューリングテストの活用。
- IPアドレスやデバイス情報の監視。
- ログイン試行回数の制限。
- アカウントロック機能の導入。
- 不正ログインのモニタリングと通知。
これにより、カード決済前のアカウント乗っ取りやなりすましを防止。
(4) 旧版からの主な変更
- 「4方策」の廃止:5.0版で規定されていた「4方策(非保持化、PCI DSS準拠、3Dセキュア、トークナイゼーション)のいずれか1つ」の要件が廃止。代わりに、脆弱性対策(5項目)と不正ログイン対策(8項目から1つ以上)が明文化され、EC加盟店のセキュリティ強化が具体化。
- 対面取引の強化:対面加盟店では、ICカード取引の普及を促進。サイン取得による本人確認やPINバイパスの廃止を推進。
3. 消費者と事業者への周知・啓発
- イシュアーの啓発活動:カード会員に対し、EMV 3-Dセキュアの登録や動的パスワードの利用を促進。利用明細の確認や不正取引の早期報告の重要性を周知。
- 加盟店の役割:EC加盟店は、セキュリティ対策の実施状況を透明化し、消費者信頼を確保。脆弱性対策や不正ログイン対策の導入状況を明確に伝える。
- 啓発資料の活用:日本クレジット協会提供の啓発動画(例:「クレカ晒されてるよ」シリーズ)やリーフレットを活用し、フィッシング詐欺や不正利用防止の知識を普及。
4. 法的背景と適用範囲
- 割賦販売法との関係:ガイドラインは、割賦販売法が求めるカード情報の適切な管理や不正利用防止の義務を具体化。遵守により法令対応が確保される。
- 対象事業者:クレジットカード会社、加盟店、アクワイアラー、PSPなど、クレジット取引に関わる全事業者。特にEC加盟店への要求が厳格化。
- 適用開始:2025年4月以降、ガイドラインの対策は原則必須。
5. その他のポイント
- 不正利用の動向:EC取引での不正利用(例:フィッシング、クレジットマスターアタック)が急増。ガイドラインはこれに対応し、事業者に迅速な対策を要求。
- 事業者間の連携:アクワイアラーやPSPは、加盟店のセキュリティ対策を支援(例:診断ツールの提供)。イシュアーは、カード会員への啓発を強化。
- 継続的な改訂:新たな不正手口や技術進化に対応し、ガイドラインは定期的に見直される。
6. まとめ
クレジットカード・セキュリティガイドライン【6.0版】は、EC加盟店の脆弱性対策(5項目)、2025年4月以降のEMV 3-Dセキュアの原則必須化、不正ログイン対策(8項目から1つ以上)を柱に、クレジット取引の安全性を強化。EC加盟店は対策実施状況をアクワイアラーやPSPに申告し、確認を受ける。イシュアーはカード会員への啓発を推進し、消費者保護を強化。事業者間の連携と消費者への周知を通じて、安全なキャッシュレス環境の構築を目指します。
出典:クレジットカード・セキュリティガイドライン【6.0版】(日本クレジット協会、2025年3月)